それは、いつもの様にバカバカしい作戦会議。
アンタは、いつもの様に斜め上の作戦を披露して。
俺は、いつもの様に無理難題を短い納期で指定されて。
そのまま、ラボにカンヅメ。


片手には工具、片手には今し方完成したばっかりの基盤を持ち、膝の上の銃の形をしかけたソレに埋め込むべくラボの床に座り込んで延々と弄くる。固定して、蓋をして、ネジをしめてさて、これで一段落。時計を見やる。隊長の言っていた納期よりも早く完成、さすが俺。
何気なく完成した銃をその辺に置きっぱなしで立ち上がる。膝から腰から首から腕からアチコチ痛くてかなわない。中央に備え付けの椅子にどっかりと沈み込む。
しかし全く、何でこんな根詰めてんだか。少しくらいは手ェ抜いたってバチは当たらないのに。何をムキになってんだ? と、溜め息ひとつ。
息抜きに正面モニターへ日向家に仕込んでるカメラの幾つかを呼び出す。外はしとしとと雨が降ってる。画面の中のアンタはいつにもまして元気だ。そろそろ湿度調整機を出しておくかな、とこれからの予定を立てる。
そうして椅子を下りたところで、寝不足と、疲労で足元が絡まって。
そのまま、バタリ。
拍子についさっき出来上がったばっかりのソレを下敷きにしてしまった。
隊長に頼まれた発明品。
べちゃり、と潰れた音がして、いや、そんな衝撃で壊れてしまう様なヤワなつくりはしてないが、どうも角度が悪かった様で、押したくもないスイッチが思いっ切りONに。
そのままプシューっと銃から煙が吹き出し広範囲に広がっていく。密閉されたラボの中、充満。

あー…噴霧じゃなくて、光線にしときゃよかった…なんて今更思ってみる。

それは、人生で一番悲しかった事を思い出す銃。悲しみに暮れて涙で前が見えないところをガーンと侵略、なんていうのが隊長の弁だ。
まあ、俺様には何の関係も無いが。
人生のらりくらり、悲しい事とは縁遠かった。
とりあえず、のっそりと起き上がってみる。
「あー…。ダッセぇ」
何ナニも無いトコでコケてんだよ俺。
隊長の所為だ。
不眠不休でやんなきゃならないような短い納期を指定しやがって、しかもひとりひとり撃つのが面倒臭いと一撃で広範囲に広がる噴霧タイプがいいって言ったのも、みんなみんな隊長。
全部隊長の所為。
隊長の…


「隊長…?」
突然、目の前に広がる風景。

手が届かない。
叫び声も。
卵。
ニセモノが笑う。
アイツが居ない。
どこにも居ない。
もうどこにも居ない。





「なん…だ、コレ」
ぱたぱたと。
俯いた視線の先、膝の上に。
水滴。







「ク〜ルール! そろそろ例のヤツ出来た〜?!」
突然の大声に全身がビリリと戦慄き硬直する。
なんてタイミングだよ信じらんねぇ。
収まらない涙をそのままに入り口の拡声器ごしとりあえず返事。
「あー…わりぃ、まだだ」
「ゲロ?! …珍しいでありますな、てゆうかナニその鼻声、風邪でもひいたでありますか?!」
「…別に」
「…なんか、クルル、様子おかしくない?」
何食い付いてんだよ、ほっとけよ。
「…泣いてんの?」
そんなトコだけ鋭くなくていいのに。
「ちょっとねえ、何かあったの? 大丈夫なんでありますか? ここ、開けてヨ!」
バンバンと俺とアンタを隔てる扉が叩かれる。
頭が痛い。
胸も痛い。
瞼が熱い。
ポンコツなカラダ。
アンタの所為だ。
アンタの所為だ。
アンタの所為だ。
「何でもねぇ。何でもねぇから、ほっといてくれ」
絞り出す様なしゃがれた声。何だコレ俺の声か?
「今はアンタに会いたくない!」
キツい調子で半ば怒鳴る様にアンタを拒絶する。
静かになったラボの入り口。
諦めたかと、ホッとした。のも束の間、

メリメリバキガチャドスンッッ!!

その入り口からとんでもない音がした。
あーそうか、湿度高かったっけ、あの頃のアンタか、ニョロロ用意しなきゃかな……ダメだ、なんか、動けねぇ。
ぼんやりと入り口の方を見やる。
黒い影。
コォォオ…と音がしそうな雰囲気。
光の届かない入り口の方、影の向こうで黒目が光っている様な気がする。



ヤべぇな、あの頃のアンタ相手じゃ俺ボコボコにヤられちまうかも。
冷や汗が垂れる。
ぴょく、ぴょく、と足音が近付く。
真っ暗な入り口の影から緑の足が覗く。
次いで暗闇から浮き上がる様に黄色い星マークのついた白い腹、それから腕、そしてゆっくりと頭部が。

「ほら…やっぱり、泣いてた」

そのカオは、いつものアンタだった。
ああ、いつものアンタだ。
ホッとして、余計に涙腺が弛んでいく。
全く、アンタってヒトは、本当に、滅茶苦茶だ。
「アンタは…俺を、ひとりじゃ泣かせてくれねぇのか」
泣き薬はまだラボの中充満したまんま。俺の涙はまだ乾きそうにない。
「ひとりで泣くのは、淋しいじゃん」
ぴょこ、ぴょこ、俺の前まで歩いて来る。
「だからさ」
ぽろり、アンタの頬を伝う透明な筋。
「我輩も一緒に、泣いてあげる」





バッカみたいだ。
もうほんと、バッカみたいだ。
ここまでなって漸く気付く。
そうだ俺はそんなアンタが。
アンタの事が、アンタの事を、アンタの事だけ、アンタだけをもうずっと、

好きなんだ。


「…泣いたカラスがもう笑ってるであります」
ああもう、笑いしか出てこねえよ、笑うしかない、だからアンタもさっさと泣き止みな、そんでそれから、


とびっきりの笑顔を。
俺に見せてくれよ。


…いつもの様に。











つゆずすみゆさんから頂きました!
うちの『ラフ・メイカー』を見て書いて下さったそうです♪
ヤフー!!


すごい。ちゃんと歌詞と合うようにしてくださってる!
クルル泣いてるー!
いやん。


泣くクルル、いいですね。
しかも一番悲しいことがやっぱり隊長関係。えへv
かわいいなぁ、こいつめ!
でも、悲しいよね。悲しいよね。切ないよね。


泣いてるクルルの元に強引に入ってくるケロロも好きですv
隊長カコイイ!
クルルが泣いてると思って、飛び込んできてくれたんですよ! (拒絶されたのに!)
愛ですね、愛v
漢前な軍曹も大好きv
こういうところがあるから、クルルも惚れてるんでしょうね。



つゆさん、素敵なものをありがとうございました!
ウキウキと絵をつけてしまいましたが、文章の良さを損なっていないことを祈ります。
「ラフ・メイカー」やって良かった!



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