クルルが日向夏美に質問をした。珍しいこともあるものだと、夏美は瞳をばちくりさせた。クルルからの質問はこうだ。

「冬樹が一生懸命収集したデータを載せたホームページがやっと完成したと思った瞬間にパソコンが落ちてデータがパァンだ。アンタなら何て言って慰める?」

前に似たようなことがあったな…と思いつつも、何でそんな質問をするのだろうと、そちらが気になる。
が、一応考えてみた。
無くなってしまったデータは戻らないし、苦労した分、冬樹はガッカリするだろう。そんな時には慰める言葉なんてない。

「うーん…慰めようがない…わね」

夏美の返事にクルルは「あ、そう」と一言漏らして去っていった。


五分後、今度は冬樹の部屋を訪れる。

「夏美が悪戦苦闘してやっとラスボスまでたどり着いたと思った瞬間にゲームをリセットされてセーブデータも無くなったとする。そしたら何と言って慰める?」

以前に似たようなことがあった気もするが、それはさておきクルルの質問に答えようと考えてみたが。

「難しいなあ…。もう一回最初からやってみたら?って言ってもすぐには立ち直れないと思うよ」

冬樹の答えにクルルは「まあそうだよな」と一言漏らして去っていった。


夏美からも冬樹からも似たような回答しか得られなかった。
どちらもクルルが求める答えには程遠い。
分かっているのだ、どうしようもないことに慰める言葉などない。
最初から分かっていたことだが、ダメ元でと最後に日向秋に尋ねた。

「担当する漫画家が完成まであと少しのところで原稿にインクをぶちまけちまったとする。さあ何と言って慰める?」

クルルの質問にしばし秋は回答せずに考えを巡らせた。クルルの表情をじっと見つめていると、クルルは視線を逸らした。
やはり何か裏がありそうだ。いつものクルルらしくないその様子に、秋は首を傾げた。

「クルちゃん少し待っててくれる?」

そして秋は夏美の部屋と冬樹の部屋を訪ね、自分と同じような質問をクルルが繰り返していることを知った。


お待たせ、と言って戻ってきた秋は、クルルにニッコリと微笑み話を始めた。

「クルちゃんの質問どおりなら慰める言葉はないわ。なぜなら漫画家さんはそれが仕事なんだから最初からきっちりやり直して頂きます!でもね、こういう場合は別よ…」

念を押して秋が語ったのはこんな話だった。

例えば夏美が私のために腕によりをかけてビーフシチューを作ってくれたとして。やっと完成したと思ったらお鍋ごとひっくり返しちゃったの。せっかく頑張って作ったビーフシチューが食べられなくなって夏美はガッカリ。

「そういう時にはね、私ならこう言うの…」

クルルの眼鏡の奥がキラリと光った。






変わってここはケロロの部屋。
昨日からケロロはここに引きこもって泣いている。

「おい隊長」
「……ぐすっ、ぐすっ」

と、こんな様子だ。


ケロロは昨日一日かけてクルルのためにカレーを作った。宇宙通販サイトで買ったスパイスつきカレーの素を使った本格派カレーだ。
ところが、いざ完成した直後に、鍋ごとカレーをひっくり返してしまった。しかも、クルルの目の前で。
ショックのあまり大泣きしながら部屋に帰ってしまったケロロを呆然と見送りながら、クルルは仕方なく零れたカレーを片付けた。
飛び散ったカレーを綺麗に片付けるロボットは作れても、ケロロを慰める言葉は知らない。

バカだな、隊長。
ドジっ子だよな、隊長は。
せっかく作ったのに残念だったよな〜ク〜ックックックッ。

ではマズいことだけは分かった。
それで慰めの言葉を求めて日向家をさ迷ったというわけだ。


「隊長、もう泣き止めよ」

と一声掛けたあと、クルルは秋のアドバイスを思い出しながら。

「今度は一緒にカレーを作ろうぜェ?とっておきの宇宙カルダモンが手に入ったからなぁ〜」

ケロロの泣き声がピタリと止まり、それからゆっくりクルルの方を振り返った。

「一緒に…でありますか?」

泣き腫らした痛々しい顔をそっと包み込んで、返事の代わりに口づけをくれてやる。





いい?クルちゃん。大切なのは、相手が失敗をただ悲しんだいるんじゃないってことなのよ。相手が悲しいのは、せっかくあなたを喜ばせたくて作ったのに、あなたを喜ばせることが出来なかった、ということに対してなの。だから次は一緒に…そう言ってあげてね。きっとケロちゃんも喜ぶと思うわ。


さすがは日向秋。
俺様の心を的確に見抜いていたとはな。


クルルの腕の中で、ケロロが一日ぶりに、やっと笑った。

本当はアンタの笑顔があればカレーはもういらねェけどな。

ちょっと臭すぎるセリフは胸にしまい込んで、クルルは二度目のキスをした。





おわり







殉愛視線の凪さんから、誕生日祝いに頂いてしまいました♪
えへえへ。なんて可愛いクルケロ!
普段の凪さんからは想像できn …ゲフンゲフン。

クルルの為に一生懸命カレー作る軍曹も、慰めの言葉を探して聞いて回る曹長も、なんて可愛いんだ!!
秋ママの言葉に納得です。
そうなんだよね、悲しいのはそこだよね。
今度は一緒につくろうって言われたら、立ち直れそうな気がします。

軍曹の笑顔を取り戻す為には人にアドバイス求めたり素直に従ったりもできる曹長、カッコイイよ!!
隊長が笑顔なら、カレーはいらないとか!

凪さん、素敵な誕生日プレゼントをありがとうございました!

(2010.09.05)