ラブ・かしわもち


今日は端午の節句。地球に住んで早や○年、季節の行事にも随分と慣れ親しんでいる。元々行事などに便乗するのは大好き性格であるからして、当然のように柏餅を買ってきた。
個数は二つ。といっても独り占めするのではない、もう一つはラボの住人である恋人用だ。

「クルル曹長〜、一緒に柏餅たっべよ!」
よ、の後にハートマーク二つをくっつけたトーンで、ケロロは肩ごしに振り返った恋人の首にしがみついた。
二人分のお茶を入れて、漆器に装った柏餅をクルルの前に差し出した。
「いっただきま〜す」
葉っぱをぺらりとはがして、あーんと大きく口を開けて、かぶりつく。
「ヤッフ〜♪美味しいであります」
ほっぺが落ちないように押さえるというリアクションがつくほどの上機嫌だが、そのケロロのはしゃぎっぷりに水を差すような冷えた声が聞こえてきた。

「クッ、何すかコレ」
「あ、クックルくんも気がついた?皮がよもぎ入りの草柏餅なのであります。つぶあんはね〜よもぎ入りしかなかったの。で、こしあんが白いの。まあ緑もなかなかい…」
「つぶあん嫌いなんすよ」
「え?」
口をつけることもなく、餅をめくっていたクルルの声に、ケロロは凍り付いた。
「…クルル、もしかしてこしあん派だった?」
メガネの縁がキラリと光った。それだけでそうだと言われている気がした。
「えっと、次はちゃんとこしあん買ってくるから〜今日のところはこれでガマンしてよね?ね?」
餡子みたいに甘い時間を楽しみたかったケロロとしては、三歩引き下がってもここはケンカしたくなかったのだが。
「つぶあんは豆の皮がポソポソとして口ん中に残るのが嫌なんだよなァ〜」
「う、うん…」
「柏餅でわざわざヨモギってのも気に入らねェな。白いフツーのこしあんが食いたかっ…」
そこでクルルは言葉を区切った。
ヨモギよりも鮮やかな色をした恋人は、その真ん丸い瞳に玉の涙を浮かべていたから。

言い過ぎた、と思っても謝るような思考回路を持ち合わせていない。
心で舌打ちして、ここは抱きしめて機嫌を取ろうかと思い手を伸ばせば、ケロロはその指先が触れる前に立ち上がって駆け出した。
ラボのドアが閉まる音がすぐに聞こえた。
残された漆器の上に、半分食べかけの柏餅が残されていた。

いけね…。

ついつい、正直に言ってしまった。
別にそこまでこだわるほど、柏餅に固執しているのではないのに。
自分と一緒に食べたくて買ってきたケロロのそんなところも可愛くて、いつまでも子供みたいな性格の年上の隊長を甘やかしてやりたい筈なのに。
ああやってイヤミではなく、まんま正直に気持ちをぶつけてしまうのは、自分こそがどこかに甘えているのかもしれない。

食べかけの餅はどんどん硬くなって、どんどんカサカサになっていく。
ケロロの気持ちもそうなっては面倒だ。
クルルはスクリーンに向かい、キーボードを叩き始めた。

ネット検索から、材料調達、機械組み立てまでしめて二時間の早業。
秘密基地の一角に、とある装置が出来上がった。
試運転なしの一発勝負で動き出した機械の口から、白くて丸型の物体が吐き出された。





ケロロの部屋は明かりがついたままだった。
しかし部屋の主は床に転がって丸くなっていた。



床に敷いた地球人サイズの白いバスタオルの上に寝転び、マンガ雑誌を枕にして、足元から肩口の方へバスタオルを引っ張り上げてくるまっていた。
そうちょうど、柏餅のように。ただし中身が緑で皮が白という違いはあったが。
おそらくラボを出て部屋に戻ったあと、半分泣きながらフテ寝をしたのだろう。

「おい、隊長」
その肩をゆさゆさと揺する。
どうせいい気分で寝てはいないのだから遠慮なく起こす。
ケロロがゆっくりと目を開ける。黄色い顔を見た瞬間に驚き、そして彼の手元を見てもう一度驚いた。



「…柏餅?」
クルルの手には皿に乗った柏餅が二つ、仲良く並んでいた。どこの星産を調達したのか、餅をくるんだ葉っぱがずいぶんと黄色っぽいのが気になったが。

中身はつぶあんとこしあんがちょうど半々になった餡子が入っている。
それは仲直りしようぜというクルルからのメッセージだ。




クルルズ・ラボ特製の柏餅はきっと、宇宙一甘い味がするに違いない。







殉愛視線の凪さんから、2周年お祝いに頂いてしまいました♪
惜しくも端午の節句から数分過ぎた頃に頂いたのですが、地球時間なんてキニシナイ!

バスタオルにくるまってる軍曹がかわいくて。
バスタオル一枚で「敷き」も「掛け」も賄えるなんて、なんて可愛いんだろうケロン人。
クルルは、あとでそっちの柏餅も頂いちゃえばいいと思います。
あ、最後のクルルの顔は怒ってるんじゃなくて、照れくさくてそっぽ向いてるだけなんで!

凪さん、甘いお祝いをありがとうございました!

(2009.05.06)