試運転




―――それは、小型ソーサー・KRR-SPが途中で壊れて、迷子になったケロロが日向家に帰還した翌日の話。



ずーるずーると使い物にならないKRR-SPを引きずって、 ケロロがラボに入ってくる。

「あー、クルル曹長。昨日は助かったであります。ありがとね」
「何がだよ。迎えに行ったのは、日向夏美だろ」
「確かに昨日は、夏美殿が天使に見えたであります。だけど、天使様をあそこまでつれてきてくれたのは、カレーくさい黄色の神様でしょ?」

隊長の回収くらいして当たり前だろ?と思いながら、クルルはにやりと笑った。

「天使様な。マニアうけしそうな、いいデザインだろ?」
「ゲロ〜。まさか量産しようっての?」
「さあな。にしても、アンタも、そんな粗悪品つかまされてんじゃねーよ。いくらネットオークションとはいえ、天下のKRR-SPが5千円の時点で気付けっつーの」
「そんなこと言ったって、クルルが何でも千円で作ってくれるから、我輩、金銭感覚がおかしくなっちゃったんでありますよ」
「俺のせいかよ!」

クルルは呆れ果てる。
何言ってんだよ。どう考えたって、アンタがボケナスだからだろうが。
確かにこの隊長の望みは、どんな無茶なものであろうと「侵略作戦」の一言で、千円どころか無料でかなえてやってきたさ。
どう頑張っても作戦とは言いがたい個人的な頼みでも、たった千円で引き受けてやってきたさ。
それを感謝されるならともかく、逆恨みかよ。それでも憎めないあたりが、全く憎たらしいオッサンだ。

「何なら、これからはもっと高くしてやってもいいんだぜぇ?」
「や、遠慮しとくであります。これまでどおり良心価格でヨロシコ」

だろうな、とクルルは笑う。

「んで? 今度はそのKRR-SPを修理しろってのか?」

そこで、妙に可愛らしい緑のオッサンは珍しい反応をした。

「いや、今回は頼まないであります。その代わりラボ貸してくんない?自分でやるからさ」
「使用料も千円だぜ?」
「了解であります。後払いでいい?」
「いいけどよ」
「あと、どーしてもわかんないとこはやり方ちょっと教えて」
「‥‥俺がやった方が早いぜ?」
「いいの!我輩がやりたいの!」

好きにしな、とクルルは開発ルームを指差すと、もう興味を失ったかのように目の前の画面とキーボードに集中した。



☆☆☆  ☆☆☆  ☆☆☆



もともと、ケロン軍人なら誰しもそれなりの技術力と科学知識はもっている。ケロロもその例外ではない。
我輩だって、時間と設備さえあればこのKRR-SPを直すことくらいはできるのだ‥‥‥頑張ればね。

何だか今回はどうしても自分でやりたかった。
それは、欲しくて欲しくて手に入れたKRR-SPへのこだわりや意地でもあったけれど。
我が隊の参謀にして技官・クルル曹長への興味でもあった。

どんな無茶な作戦を言い出しても、二つ返事で引き受けて、実現化するクルル。
ケロロは、彼の技術力には心から感心しているし、勿論感謝している。
だけど密かにもう一つ思っていることがあった。

‥‥楽しそうであります。

我輩の頼みが無茶であれば無茶であるほど、クルルは楽しそうだ。
そんなこと指摘してへそを曲げられたら困るから、絶対言わないけれど。
そして、完成した試作品を我輩に見せる時のクルルの満足気で得意気な顔ときたら。



‥‥子供みたいであります。

これも指摘したらオソロシイことになるから言わない。
まあ、クルルの作る武器はいつだってスゴイから、我輩もいっしょに子供みたいに楽しんじゃうんだけどね。

何となくだけど、技術屋(科学者?)クルルが、物を作ることそのものを愛しているのはわかる。不可能を可能にする瞬間を喜びとしているのもわかる。
そうして、その感覚を自分も味わいたいなとケロロはふと思ったのだ。
いつもクルルが感じている気持ちを、我輩も共有したい。

「ただの好奇心でありますよ」

クルルに、というよりは自分に言い聞かせるようにケロロはつぶやくと、KRR-SPを引きずって開発ルームに入っていった。



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「ぬおお〜!こうでこうでこうであります!いやっふー!!我輩って天才!」

うるせえ、とクルルは思う。
開発ルームは好きに使っていいが、まさかマシンの修理をしながら、こんな騒ぐヤツがいるとは思わなかった。
気が散ることこの上ない。

「ほんげ〜、どーして、こいつが動かないのよさ!!ま、ましゃか!サスまでがおしゃか?」

あー、そうだろうとも。そもそも、おしゃかになってないパーツの方が少ないんじゃねえか。

「ま、いっか!こことこっちを直接つなげちゃえば、何とかいけるんじゃね?カスタマイズってヤツであります!」

おい、バカ、やめろ。無理だ。見なくてもわかる。

バキメキガタ、ズデデデデーン。ガシャパリーン!バフン!!
「うわちゃー。ちょっと〜、無理があったかな〜」

「くっ‥‥」

もう限界だ。あの緑はほっとけねえ。

開発ルームにずかずかと入っていくとクルルは言った。

「貸せよ」
「あり?クルル、どったの?」
「貸せって言ってんだよ!俺様が直すから!!」

小躍りしてすり寄ってくるかと思ったケロロは、むっつりした顔で首をふった。

「今回は我輩がやるって言ったでしょ!い、今、いいとこなんだから‥‥」
「どこが、いいとこだよ!アフロになってんだろが!」

自分でやるんだもん、と足でのの字を書く姿はどこの幼児かと思う。
クルルはため息をついた。
どういう理由だかはわからないが、今回ばかりは隊長は俺に頼る気はないらしい。

「勝手にしな」

開発ルームから出て行きながら、クルルはつぶやいた。

「俺様なら出力100%は目指さないぜぇ〜。そのへっぽこパーツにかけられる負担は60%がいいとこだからな」
「ク、クルル曹長!我輩、教えてなんて言ってない‥‥‥」
「ん〜?」
「‥‥‥ありがと」

聞こえないふりをして、黄色はいなくなった。



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数日後。

「クルルー!見て見てー!!」

「何だよ、隊長。今、忙しい‥‥」

そんなことはおかまいなしに、クルルの手を取ると、スキップしながら開発ルームに連れ込むケロロ。

「えへへ〜、完成であります!ちゃんと動くようになったでありますよ!!」
「‥‥‥みてえ」
「ん? なになに? 何みたいだって?」

子供みたい、と言ったのだ。
あんまり得意そうで、あんまり満足そうで、あんまり嬉しそうだったから。
全く、可愛らしいオッサンだ。

「いや‥‥やるじゃねえか、隊長。なかなかよくできてんじゃねえの?」
「ぐふふ〜、苦労したでありますよ!」

俺が作った物を見た時の、驚きと喜びの顔も勿論可愛らしいが。
自分で作った物を見せる時の得意満面顔も可愛いな。思いがけず、いいもん見たぜぇ。






見たところ、ケロロの修理したKRR-SPは、ペコポンを軽くながす分には何の問題も無さそうな仕上がりになっていた。
反重力エンジンに過度の負担をかけない限りは大丈夫だろう。

「ね、ね、ね!試運転行こーよ、試運転!」
「ああ、行ってきな〜」
「行ってきな〜、じゃなくってさー」

ひょいと愛馬にまたがると、ケロロは自分の後ろをぽんぽんと叩いた。

「クルルの席はここ、であります!」
「俺もかよ!」
「最初のタンデムはクルルと決めてたでありますよ」
「‥‥勝手に決めんなよ」
「じゃ、じゃあ、行き先はクルルに決めさせてあげるであります!」
「‥‥‥」
「せ、千円払ってもいいから!我輩の修理したマシンに乗ってみてほしいであります!」
「‥‥‥しょーがねえな。行き先は俺が決めるぜ?」
「いやっふー!!そう来なくちゃ!」

頬を染めて、ご機嫌な笑顔を浮かべる緑。
こいつと二人でペコポンの空をながすのは、きっと爽快だ。
行き先は‥‥‥そうだな。

ひとけのないトコロが、いいんじゃねえの?



FIN











けろっとさんから六万ヒットに頂きました! きゃー!!
なんと、クルケロ祭に投稿した「KRR−SP」への場外共鳴vv
わーーい!!


あれに感想を下さった時に既にとても素敵な話を膨らませて下さっていたので、読みたいな〜とねだってしまったのですよ。お忙しいのを分かっていながら!
だって、けろっとさんの小説大好きなんですもん。


そして案の定、素敵な小説が!
しかも、めちゃめちゃ可愛い! たまらん!!
なんですか、この可愛い二人。可愛いオッサンと可愛い嫌な奴。
お互い可愛いと思ってるところがまた可愛いというか。
どっちも可愛いよ。まとめて抱きしめたいよ。


気持ちを共有したいとか、放っておけないとか、さり気ないアドバイスとか、最初のタンデムとかとか!


ひとけのないとこでも、どこでも行くといいよ!
二人で思い切り飛ばして来いよ!


えへへ。あの絵はクルルとタンデムしたとこも一度くらい見たいなーと思って描いたものでしたが、この小説のお陰で、他の子達も乗せてるけど一番にタンデムしたのはクルルなんだと妄想できるようになりましたv
妄想万歳!


けろっとさん、萌えをありがとうございました!!
邪魔になるかなぁと思いつつ、描きたくなって挿絵を入れてしまいました。

けろっとさんの素敵な小説いっぱいのブログサイトはこちら★ → お気楽ケロッ!と生活