暇つぶし


ラボのドアが開いたのは判っていたから、クルルは手を止めることなく
背中で気配を聞く。

「ねぇ、クルルーこっち向いてー♪」

聞こえて来たのは呑気な足音と間抜けなほど平和な声。
メロディーは地球でかつて放送された、異国の妖精が登場するアニメの歌のようである。
それがぴこぴこと近づいてくる。

振り返らずにクルルはモニターを見つめ続ける。
心のなかではカウントを取りながら。

やれやれ、この人はよ。 2……1……。

「クルルってば! 気づいてんでショ、無視しないでよっ」

左側から抱きついてきたタイミングはクルルが計っていた通りのものだった。
むぎゅ、と押しつけてくる頭を押し返しつつ、クルルはわざとらしく息を吐いた。




「何か用なのかよ、隊長」
「遊んでっ」
「…………」

これが年上で上官の言う言葉なのだろうか。
しかも互いにイイ年の大人である。

軽くめまいを覚えつつクルルは答えた。

「何でオレんとこに来るんだよ。ガキとか陰うっすい先輩とか武器オタクの先輩とかいるだろ」
「だってだってー、聞いて?
タママは桃華どのとショッピングだし、ドロロは小雪どのと修行だっていって二、三日見てないし、ギロロは宇宙人街の武器ショップのバーゲンに行っちゃったんだよー」
「じゃあ日向冬樹は」
「ママどのが久々にお休みなので夏美どのと三人でお出かけであります。みんな我が輩を置いてっ」

ぷんすか怒っているものの、時刻はすでに昼近く。
朝寝を決め込んでいたケロロが勝手に置いていかれ、寂しさのあまり残ったクルルの所へ駈けこんできたようだ。

ちっ……貧乏クジか? いや、待てよ。

今日はモアもいない。
たまたま一日フリーにしてやったら活断層を見にいくと行って嬉々として出かけたのだ。

てことは、日向家も含めてこの秘密基地にはオレさまと隊長の二人きり、ということか。
遊び相手がいなくて退屈してるみてぇだし、ここはひとつお相手してやるのが部下の務め、ってヤツ?
それならたっぷりお相手してやらねぇと、なぁ。

「じゃあ、隊長、今日はオレさまに付き合ってくれるんだな?」
「ん、いいよー、何して遊ぶ?」

およそ上官としての威厳もなく(いつもないが)ケロロは無邪気にクルルの腕を揺する。
そっと右手でリモコンのボタンを押すと、音もなく金属製のアームが四本、
うねうねとケロロの背後でうねった。

「ゲロ? え……ちょっと、なに?」

そして緑色の体はあっという間に引き上げられた。



大の字の格好で宙に浮くケロロは思ったよりクルルの興味をそそった。
四肢を捕われたケロロがじだじだと暴れているのがまた何とも言えない。

いいねぇ、こういうの。なんつーか……据え膳? ちょっと違うか。

オヤジ的思考をめぐらているとケロロが頭上から抗議した。

「クルルっ、どういうことよ、これっ」
「んあ〜? 遊ぶんだろ。ここじゃアレだしベッド行こうぜぇ」
「いや、そんな昼間から……ってそういうことじゃなくて、遊ぶって」
「子どもじゃないんだから判るだろ。イイコトしようぜ」

明らかにケロロの顔が赤くなった。
とっさに言葉が出ないのかぱくぱくと口を開けている。

「イイコトって、我が輩そんなつもりじゃ」
「じゃイケナイコトでも可」
「そうじゃなくって!」

もがくケロロの脚を指先で撫であげると、のどの奥で妙な声を出して口をつぐんだ。
ぎゅ、と目をつぶった顔を眺め、にやにやする。

「時間はあるんだ、たっぷり楽しもうぜ、隊長」
「ん……っ、ク、ルルッ」



「感じてんのかい。だったらここでもいいぜ」
「あ、やぁっ。ダメ、そんな……トコ」
「ククク〜ッ。触らなきゃ何もできないだろぉ」
「ああ〜……」

しばらく、ラボには艶めかしい声だけが響いていた。





「今日はずいぶん収穫があったぞ。見せてやろうかケロロ」

満足な買い物ができたのか上機嫌なギロロが部屋をのぞくと、
そこにはやけに憔悴しきったケロロが座り込んでいた。

「あー……お帰り、ギロロ」
「ど、どうしたんだ? 具合でも悪いのかっ」
「そゆことじゃないんだけどね、まぁちょっと、イロイロ」

力なく言葉を濁す目の下にはうっすらと隈までできている。
ただごとではないと思ったギロロの脇をクルルが鼻歌なんぞ歌いながら通り過ぎる。

「おいクルル、昼間何かあったのか」
「んん〜?」

振り向いたクルルはケロロとは対照的に肌艶が良い。
いや、いっそ不気味なほどに艶々し過ぎている。

「別に、ちっとばかしふたりで暇つぶししていたくらいさ」
「そ、それにしても、だな」
「おっと、これ以上はプライベートなんで答えないぜぇ」

ククク、と笑いながら去っていくクルルと魂の抜けたような顔で座り込むケロロを
見つめ、ギロロはただただあ然とするしかないのだった。









THE ODESSA FILEの神崎さんから、2周年お祝いに頂いてしまいました♪
ヤフー!
これくらいならR18じゃないですよね?
肝心なとこ見せてくんないんだもんね! ということで注意はつけませんでした。

やー、隊長が可愛くて可愛くて。にやけちゃいました。
なんて可愛い上司だろう。
そりゃあ、いっぱい遊んであげないとね!
ていうか混ざりたい。混ぜて下さい。(追い出されそう)

あと、なんだかギロロが可愛くて。
ちょっときゅんとしてしまいました(笑)。

神崎さん、エロかわなお祝いありがとうございました!

(2009.05.07)