「あ、今の・・」
「んんー?」
やることが無いとかいいながら勝手にラボに入ってきて遊んでいたケロロだったが、
いつの間にか、研究中のクルルのパソコンを覗き込んでいたようだ。
今まで黙って一人遊びしていたのに、突然言葉を発するから、
クルルも思わず返事をしてしまった。
「いや、なんでもないであります」
「なんだよ、気になるじゃねーか。」
クルルはそう言いながら、今見ていた映像をゆっくり巻き戻してみた。
「ほら、そこそこ、あそこであります。」
ケロロの声は、確信を得たことが嬉しいのか、先ほどより少しはずんでいる気がする。
「ほら!そこの赤いのが。」

   −−赤いの−−

その言葉を聞いてクルルのテンションは一気に下がった。

  (またか。)


「ほら、ね、やっぱり。どこぞの赤ダルマにそっくりだと思わない?
ね、クルル!」
あまりに予想通りの言葉が返ってきたので、クルルは呆れて笑ってしまった。
「・・・隊長は、赤いものみると、みんなギロロ先輩に見えるんだな。」
精一杯のやきもちのつもりだった。クルルにしてはかなり勇気を出して言った言葉だ。
しかし、返ってきた言葉はそんなクルルの精一杯の気持ちをさらっとかわしたものだった。
「まあねー、ヤツとは腐れ縁で、付き合いが馬鹿みたいに長いでありますからなぁ。
なんか赤くて丸いものとか、目つき悪いものとか、傷がついてるものとか見ると、
ついついあの赤ダルマを思い出してしまうであります。」
さぞ、迷惑だという言い方はしているが、表情は和らいでいる。

そんなケロロの様子が、クルルのイライラを助長させる。
「・・・。その腐れ縁の先輩が、あんたに用があるみたいだぜェ〜」
クルルはディスプレイの映像を軍曹ルームの監視カメラの映像に切り替えた。
そこにはいつもの通り眉間にしわを寄せながら、いらいらした感じでケロロを探してい
るらしいギロロが映っていた。
「ゲロ・・。ヤバイであります。ああー、我輩なにしたっけ?」
「どうせまた早く侵略しろって言うんじゃねーのー?」
「はぁ、まったくアイツはほんとワンパターンだよねー・・・」
ケロロはそう言いながらラボを出て行こうとした。
「ここに居れば絶対見つからないぜェ?
 ギロロ先輩が自分からここに入ってくる事なんてないからよぉ。」
そういうクルルに、ケロロは微笑みだけを返して、ラボを足早に出て行った。

「・・・チッ」
なんで行くんだよ。しかも、ちょっと嬉しそうな顔してたし。








そのうちディスプレイに映っていた軍曹ルームに緑の影が映り、
案の定物凄い剣幕で、赤い幼馴染に何かをまくしたてられている姿が映った。
「まあまあ、おちついてよ、ギロロ」
音声は聞こえないが、ケロロがそう言っているのは明らかだった。
その後はいつも通りのマンネリの夫婦漫才みたいなやり取りが行われているに違いない。
クルルはため息をついて、モニターのスイッチを消した。

それがただのくだらないヤキモチなのは解っている。
彼らの絆がとても強い事も解っている。自分の入る隙が無いことも。
多分、彼らは、自分が生まれる前から出会っていた。
ある意味、幼少時にギロロと出会わなければ、
今のあの「ケロロ軍曹」は存在していなかったとも言える。
そう考えると、感謝こそすれ、妬むなんてまったくのお門違いだ。
そんな事は解っているさ。
「俺も、相当堕ちたな」
クルルは自嘲しながらつぶやいて、再びモニターの電源をつけた。
そこに映ったのは、誰も居ない軍曹ルーム。
二人でどこかに出かけたんだろうか。
また、自覚したくない感情が湧きあがってくる。なんなんだ、いったい・・。

モニターの映像を自分のパソコンのものに切り替えて、先ほどの続きの研究を始める。
やっぱり、こうしているのが自分の性にあっているようだ。
人付き合いなんて、面倒くせぇ。
こいつらと遊んでいたほうが、何倍も楽しいし、気持ちも楽だぜェ・・・

−−−

どのくらいの時間が経過したのだろうか。研究も佳境に入った頃、
勢いよくドアが開く音がした。
「クルルー、ただいま〜」
帰ってきた。居れば居たでウゼェ。だいたい、なんで普通に入って来るんだよ。
しかも「ただいま」って・・。
もう少し集中させてくれよ、あとちょっとなんだから・・。
クルルはケロロを無視して打ち込み作業を続ける。
ふいに、モニターの前に緑色の手が差し出された。
その手の上には1匹のカタツムリが居て、ちょうど、恐る恐る殻から顔を出そうとしているところだった。



「なんだぁ?隊長、今度は殻つきのウェットルマンでも作れって事かい?」
「違うでありますよ。ほら、見て見てー。これ見て何か思い出さない?」
「別にぃ・・・」
クルルは体全体で、ケロロを拒否するように、パソコンの視線をモニターに移し、
パソコンの打ち込みを続けようとした。
「もう、クルルは!ノリが悪いんだから!」
と、もったいぶったように言いながらケロロはクルルの顔を自分に向かせて、
逆の手でクルルのお腹を指差した。
「ほら、クルルの階級章にそっくりであります!」
「はぁ〜?」
「さっき、洗濯を取り込もうと庭に出たときに見つけたんでありますよ。
 なんかクルルの事思い出しちゃってさー」
クルルは振り向くことが出来ずに、モニターに集中する振りをした。

「ね、今度一緒にカタツムリ探しに行こうよ、クルル」

   ・・・なんだそれ・・・。

「俺様がそんなの行くわけ無いだろ〜?」
クルルが振り向きもせずにそう言うと、ケロロは「まあ、そうでありますけど・・」と言葉を濁す。
まったく、クルルはつれないでありますなと独り言のようにつぶやいてから、
「忙しそうだから、我輩部屋に戻るね。
 あ、このカタツムリは我輩が部屋で飼う事にしたから、いつでも見に来るであります。」
と言ってドアの方に向かった。
『カタツムリを飼う』という突飛な話にクルルは思わず笑って、
「隊長〜、あんた、生き物飼うなんて、向いてないぜェ〜。ちゃんと世話しねぇだろ?」
とケロロの方を振り向いて毒づいた。
「平気でありますよ」
いつもの嫌味だと思って、ケロロはさらりと交わして、
「これ、夏美殿撃退のいい武器になるしぃ・・・」
なるほどな、そういう事かとクルルは納得して再びモニターに向かい直した。
その時、ケロロが
「それに、こいつ、クルルみたいで、なんかほっとけないんでありますよ」
と言ってラボから出て行った。
一人ラボに残されたクルルは、たぶん、誰も見たことの無いような顔をしていたに違いない。
「たまんねぇなぁ、あの隊長は・・」
クルルは「クククッ」と、わざと陰険さを含んだ笑い声を出してみた。
誰に対する嘲笑か・・。クルル自身はわかっていたはずだ。
そして、モニターの方に改めて向き直り、カタツムリを素材にした、
夏美撃退用マシンの開発を始めたのだった。
「このマシン作るには、かなりの量のカタツムリが必要になりそうだな・・
 しょうがねぇ、マシンの原料集めに付き合ってやるか・・・」









ぶうさんから三万ヒット祝いに頂いてしまいました−!
きゃー! ぶうさんのクルケロ! 貴重!!
しかも、クル→ギロケロ(クルルの勘違い)ですってよ、奥さん!
イヤー!
めっちゃ萌えました。
一人でこっそり嫉妬してるクルルがもー可愛くて可愛くて。
ああ、かわいい。
勇気出して精一杯ヤキモチな台詞を言っても、いつも嫌味口調だから気づいてもらえないんだぜ!
いや、ひょっとしてこの軍曹は気づいた上でかわしてるんでしょうか。
どうも天然のタラシの匂いが…。色男? 天然誘い受け?
アイドルにでれでれしてるガンちゃんに怒るアイちゃんに、「あ、分かった! どことなくアイちゃんに似てるから、こんなに好きなんだな」とか言っちゃうガンちゃんのような。(ヤッターマン)
…っていうか、このギロケロはあながち勘違いでもないよーな気がするのは、最近のギロケロ波のせいでしょうか。
いやでも、クルルにまたか、って思われるほどしょっちゅうギロロのこと言ってるみたいだし。
「・・・隊長は、赤いものみると、みんなギロロ先輩に見えるんだな。」とかクルルに言わせちゃうほどだし。(↑この台詞、色んな意味で可愛い!)
怒鳴られに出向いちゃうし。

がんばれクルル! 敵は手強いぞ。





〜オマケ・その後のカタツムリ〜




「…勝手に名前使うなよなァ」
「あっ、見て見て! クルル2号が夏美殿を撃退したであります! すごい! すごいぞ、クルル2号!」
「……………」
「ああっ! 夏美殿がナメクジ退治用の薬を持ち出してきたっ! 耐えられるのかっ、耐えられるのか、クルル!」
「………おい」
「あ、あ、あ………」
「………おいおい…」
「うわ〜〜ん、クルルぅ〜〜〜〜! 死ぬなぁーー!!」
「せめて2号ってちゃんとつけろよ……」





ぶうさん、萌えをありがとうございました!!
ぶうさんの素敵なサイトはこちら → カエル倉庫