桃毒


「ガーラガラガラ!」
某宇宙海賊に顔以外が少し似ている赤い服の宇宙人が、機嫌良く喉を鳴らしている。
それを見ながら、縛られた宇宙人は退屈そうにため息をついた。

捕らえられているのは、侵略性宇宙人ケロン人。
地球の蛙とよく似た姿を持つ小さな種族だ。
小柄で愛らしい外見に反して、高度な科学力と驚異の肉体能力を併せ持ち、他星を侵略することで繁栄してきた血生臭い歴史を持つ。
一方、高笑いしているのはケロン人の天敵ヴァイパーという種族で、体は地球人タイプだが顔は地球のコブラに似ている。(あるい意味、体も『コブラ』に似ている、とも言える)
天敵というだけあって、ケロン人はヴァイパーに弱い。
遺伝子に恐怖が組み込まれでもしているのか、星を越えて『蛇』と『蛙』の宿命なのか、ヴァイパー相手のケロン人は基本的に蛇に睨まれた蛙だ。文字通り。
宇宙一武闘会七場所連続覇者のドロロさえ、一人では手も足も出なかった。

それなのに、現在一人で囚われているケロロは全く危機感を感じていなかった。
勿論、ヴァイパーは天敵であることには変わりない。
あの目に睨まれると手足がすくむ。

だが、このヴァイパーは顔見知りだった。
ケロロ小隊と同じく地球に滞在しているらしいこのヴァイパーは、どうやら地球の『特撮』が好きらしく、特撮のお約束に従って動くことが分かっているのだ。
何度も何度も対峙したことがあるケロロにはお馴染みだ。
ヒーロー(ケロロ達のことだ)が名乗ってる途中で攻撃することもないし、長ったらしい必殺技の過程も律儀に全部待っててくれた上、避けずにやられてくれる、そんなヤツなのだ。
つまり、こいつが他の小隊メンバーが揃う前にケロロに手を出すことはあり得ないということ。
子供向けのヒーローショーで怪人役に捕まっているようなものだ。

「…貴様、今ため息をついたな?」
高笑いしていたヴァイパーが、耳ざとく聞きつけ振り向く。
「だって〜もういい加減飽きたでありますよ。何度も何度もしつこいっての」
「なっ、何!?」
「とっとと終わらせてガンプラ作りたいんだよね〜」
「き、貴様…ちゃんと人質としての緊張感を持たんか!!」
「そーんなこと云われてもさぁ。結果見えてるっつーか。視聴者も飽きてんじゃないの?」
「ぐぬぬぬ…」
普通なら、視聴者って何のことだ!!とつっこまれそうな台詞であったが、この『特撮』好きのヴァイパーはちゃんと『視聴者』を意識している数少ない人間だった。
だからこそ、悪役のお約束に拘っているのだ。
ケロン本星で放映されている『ケロロ小隊記』を友人に頼んで録画して送ってもらったりするほど、実はファンなのだった。

「ガーラガラガラ!」
「ゲロ?」
唸っていたかと思うと突然笑い出したヴァイパーを、ケロロが怪訝そうに見上げる。
「生意気なケロン人よ。ならば『視聴者』の期待に応えようではないか」
「えっ」
ケロロの中で警鐘が打ち鳴らされ始めた。
なんだかヤバそうな展開。
『視聴者』の期待ってナニ!?
変な刺激しちゃった? やぶ蛇?
「俺様が好きなのは、なにも特撮のお約束だけじゃない」
そう言うと、ヴァイパーは懐から何やらぬるりと光るモノを取り出した。
「シモのお約束も好きなんだぜ!」
「冗談!!」
人間必死になると力が出る。
火事場のなんとやら。
“あの頃”の力が戻ったように、ケロロは自分を捕らえていたロープを引きちぎった。
そして一目散に走り出す。
が、走り出した途端こけた。
ぎょっとして足を見ると、ぬめぬめと光るものが絡みついている。
「ゲーーーローーー!?」
必死に外そうと試みるが、逆に両手両足をそのぬめぬめに捉えられてしまった。
そのまま大の字に広げられる。
いくら暴れても拘束は緩まない。
「ど、どうする気でありますか」
「ガーラガラ! さあなぁ。そいつら次第だな」
そいつら、とヴァイパーが言うのでぬめぬめをよくよく見てみたら、それはケロロもよく使う宇宙植物ニョロだった。
ニョロはよくロープ代わりに使われる一般的な宇宙植物だ。
基本的に標的に巻き付く性質を持っているが、特に害はない。
「そいつはちょっとばかり特別製でなぁ」
ヴァイパーがにやにやと笑う。
確かに普段使うニョロよりも表面を流れる粘液量が多いようだ。
べとべとというよりぬるぬる。
感触もとてもソフトですべすべしていて、巻き付かれていてもあまり肌に負担はなさそうだった。
「はぁ…」
ケロロの口から熱い息が零れた。
暴れたせいだろうか、なんだか体が熱い。
鼓動が早くなっているような気もする。
「んん〜? なんだもう利いてきたのかぁ?」
「なにが…」
「ケロン人は表皮からの吸収率がいいらしいが、貴様は特にいいみたいだな」
「だから…何」
「エロのお約束、だよ。そのニョロはプレイに使う為に改良された特殊なヤツなんだな」

ゲロ…ほんとカンベン…
ケロロはその言葉の意味を理解して、目の前が真っ暗になるのを感じた。
宇宙には様々な種族がいれば、様々な趣味の人がいる。
使ったこともなければ、幸い使われたこともなかったが、そういうニョロが販売されているのはケロロも知っていた。
性感帯をより敏感にし、痛みを和らげ、気分を高揚させて無理矢理発情に近い状態に持って行く、媚薬のような麻薬的成分が分泌されるように改造したもの…だったはずだ。確か。
このおぞましい感覚を遮断できるものならしたかったが、生憎アサシンのような特殊技能は身につけていない。
むしろ体の感覚は普段より敏感になっていて、ニョロがぬるぬると動く度に体を震わせてしまう。



「あ……ふ…」
なるべく声を抑えようとするのだが、既に体はケロロの心の制御を離れ始めていた。
面白そうにヴァイパーがケロロの上気した顔を覗き込む。
ケロロは、ぎゅっと目を閉じてなるべくヴァイパーから顔を背けるように首を捻った。
その顎を乱暴に掴まれて正面に向かされる。
残念ながら圧倒的な力の差で、首は全く動かない。
閉じた目と口に力を入れたのは、せめてもの抵抗だ。
その間も特殊改良されたニョロは体を這いずり回っている。
心は反応を示したくなくても、体がぴくりぴくりと反応する。
いつもより敏感になった肌に、このニョロの粘液の感触は気持ちよすぎた。
「…ん…くっ」
歯を食いしばっていても、声は漏れる。
顔を赤くして苦しそうに耐えるケロロの顔に、ヴァイパーは舌なめずりをした。
「貴様…今まで気づかなかったが…悪くないな。いや、いいな。全然いけるぜ」
ぎゃーー!
何言ってんの、この人!
ケロロはあまりに恐ろしいことを言われて、思わず目を見開いた。
ヴァイパーと目が合う。
途端に凍り付いた。
ケロン人の天敵。捕食者の目。
脂汗がぽたぽたと滴り落ちる。
最近忘れかけていた感覚。
ヴァイパーの二股に分かれた細い舌が、すかさずそれを舐め取った。
ぞくぞくっ。
ケロロの小さな体を悪寒が走り抜ける。

いや!いやだいやだいやだ…!
助けて!誰か!

凍り付いた喉は声を出せず、ケロロは心の中で叫んだ。

誰か…!!
ギロロ! タママ! ドロロ! …クルル!

「どうした? 可愛い声はもう出さないのかぁ?」
ヴァイパーは顔中を舐め回すが、恐怖に凍り付いたケロロは声を出さない。時々震えるだけだ。
「ちっ」
忌々しそうに舌打ちすると、ようやくヴァイパーはケロロの顔を解放した。

「まあいい…せっかくだ。ゆっくり楽しもうじゃないか、ケロン人。ガーラガラ!」


ケロロにとって絶望的な時間が始まろうとしていた…





エロ要素満載で!
でも始まる前に終わってすいません。

ずっと前に書いて放置してたものを加筆修正しました。
絵茶の時にやったんですよね。ヴァイケロ。触手もの。
もっと見たい!って言われて、調子乗って書いてたんですが、どうもこれ以上書ける気がしなくてずっと放置してました。
いくら天敵とは言え、お人好しにすら見えるあのヴァイパーをこんな役にしていいのかという葛藤もあり。

一応、アニケロのヴァイパーのつもりで書いてます。
アニケロ見てて、もう天敵設定がぐだぐだだなって思ってて。そこから書き始めたんですが、私はアニケロを途中からしか見てない!
アニケロでのヴァイパーがどんなヤツか、ホントはよく分かってない!
ということで、書きづらかったのもあります。

でもま、時間が経った今読み返してみると、ま、細かいことはいいんじゃない? エロければ!って気分になりました。
大人になった!(ダメな方向で)
ということで、これもアップ。

タイトルの桃毒は、エロ=桃色っていう単純な発想から…。エロの毒で媚薬と。
コブラの持つ猛毒……という意味にかかって…たら良かったな。
調べてみたら、コブラって神経毒持ってるんですね。
そっちでも良かったなぁと思いました。媚薬。せっかくのヴァイパー活かせば良かった。

(2009.04.01)


★オマケ★ (2009.04.28追加)

没カット



無理矢理正面を向かされる軍曹。
いやん。






いっそラブラブとか!


とも考えたんですが、使ってない文があったんで。せっかくなんで使いました。