少年の日々

サイト一周年記念に描きました。
大健闘アンケート二位「ギロケロ」です。
(☆一周年記念用アンケート結果
フリーダウンロードですので、よかったらお持ち帰り下さい。(小さいの→

成体で考えると、まだ修行の足らない私の頭ではどうにも悲恋になっちゃうので、無難におたま時代にしておきました。

↓ オマケ駄文。

(2008.05.10)







森の大木の大きく張り出した根の中に、赤と緑の幼生ケロン人が身を潜めていた。
赤い子供が緑の子供の口を押さえている。
「んむーーっ!!」
口を押さえられた子供が精一杯の抗議の声を上げた。
しかし赤いケロン人の子供は離そうとはしない。
何しろ自分たちの命が懸かっているのだ。
「しっ! 気づかれるだろ! 静かにしてろよ!」
「むぐぅむむむ…」
声を潜めた警告に、尚も不満げに緑の子は声を漏らす。

緑の子…ケロロとて分かっているのだ。
人一倍旺盛な持ち前の好奇心が抑えられず、近づいてはいけないと言われていた森の奥の洞窟にギロロと二人で入った。
物怖じしない性格で友達の多いケロロだが、そういう大人の言いつけに逆らうような遊びにはいつも、ギロロだけを誘うことにしている。
ギロロならあれこれ文句は言っても、結局最後までケロロの遊びに付き合ってくれるからだ。
幼年訓練所の教官に共に絞られたことも一度や二度ではないどころか教官室呼び出しの常連で、二人は訓練所ではちょっとした有名人だ。
そうして付き合いのいいギロロと二人で危険な匂いに心躍らせながら入った洞窟には、それはそれは危険な肉食獣が住んでいた。
目下子育て中のその獣は大変気が立っており、二人の姿を目撃した途端襲いかかってきた。
二人は一目散に逃げ出したが、洞窟を出た今も獣は追ってきていた。
持っていた爆竹や目つぶし砂爆弾で時間稼ぎは出来たが、獣は臭いを頼りに正確に追ってきており、このままでは捕まるのは時間の問題と思われた。
そのとき、ギロロがこの樹を見つけてケロロを引っ張り込み、口を押さえつけて今に至る。

だから、ケロロとて分かってはいる。
今が声を出してはいけない状況だということは。
分かっているが、不満なのだ。

声を出してはいけない状況だということは分かりきっているのに、ギロロが最初から自分の口を押さえにかかったこと。
ギロロの手に押さえられて息苦しくて仕方がないこと。
ギロロの手が自分の吐息と唾液とギロロの汗で濡れて不快なこと。
だから、力尽くでも手をどけたいのに、変な体勢で押さえつけられているせいか上手くどかせられないこと。

その全てがケロロを苛立たせているのだった。



肉食獣の足音が近くを通り過ぎてから、かなり経ったように思う。
この樹は独特の匂いを発していて、人間の匂いもかき消してしまうのだと先日兄に教わったのが役に立った。
ケロロと付き合っていたらいくらあっても足りないサバイバル知識だ。
覚えておいて損することは全くない。
獣が戻ってくる様子がないことに安心して、ギロロはようやく力を抜いた。

「もう大丈夫だろ…」
「ぷはーっ! はーっはーっはーっ…」

解放されて、ケロロは激しく呼吸を繰り返した。
大げさだな。そう言おうとしてケロロの方に目を遣ったギロロは幼馴染みの姿に固まってしまった。


上気した頬。濡れた口元。切なそうに歪んだ目の端には涙が滲んでいる。



とくん。

…と、ギロロは自分の心臓が小さく跳ねたのを感じた。

(なんだ…?)


だがその理由を確かめるより先に、ギロロは吹っ飛ばされていた。
木の根に頭が打ち付けられる。
片頬の熱さで、自分が殴られたことを自覚した。
ケロロだ。

「何しやがるっ!!」
「ギロロのバーカ!!」
「なっ…」
助けてやったのに、いきなり殴りかかってきた上にこの暴言だ。
怒りより先にぽかんとしてしまう。
「おま…何怒ってんだよ?」
「フンっ!」
ケロロがかなり怒っているのにギロロはようやく気づいた。
答えず、ケロロは見下すように睨み付けてくる。
顔の赤みは引いていないのに、先ほどの面影など一切ない憎たらしい顔だ。

喧嘩を売られる心当たりはないが、とにかく頭に来たギロロは体勢を立て直すなり殴りかかった。
殴られたら殴り返す。
それでおあいこのはずだ。

が、ケロロはひょいと避けてしまった。
「避けんなっ」
「いやだね〜! あかんべーだ!」
「この野郎!」

ケロロはとにかく素早い。
立ち回りのしにくい狭い場所だというのに、逆に遮蔽物を上手く利用して動く。
戦闘に関するセンスは天性のものだ。
そのトリッキーな動きに翻弄されつつも、ギロロの拳は何度かケロロを捉えた。
その倍くらいケロロの攻撃もギロロに入っていたが、日頃父や兄に鍛えられ、それに真面目に応えているギロロの拳はその分重く確実だ。
二人が息を切らして地面に倒れ込んだ頃には、双方のダメージは同じくらいだった。

「はぁ、はぁ、はぁ…」
「はぁ、はぁ……あは、はは…ははっ…けほけほっ!」

荒い呼吸をしながら笑い始めたケロロが、上手く息を吸えずむせる。
それを見てギロロも笑い始めるが、やはり同じようにむせてしまい、二人して笑ってるんだか苦しんでるんだかよく分からない状況になった。
二人とも、土と汗と涙と滲んだ血でどろどろだった。


ある程度回復するまでそうして寝ていたらすっかり日は暮れ、心配して探しに来た親や教官に二人はこっぴどく叱られた。
喧嘩で作った怪我より、それぞれの父親の拳骨の方が体に響いた。


結局ケロロが何を怒っていたのか分からないままだったが、もうギロロにはどうでもよかった。
元々気まぐれな奴だ。
幼い頃から付き合っているギロロは、理不尽に振り回されるのにも慣れている。
黙って耐えるタイプではないが、一度発散すれば後を引かないさっぱりした質だ。
互いに喧嘩慣れしていて加減も知っており、尚かつ力が拮抗しているので、二人の殴り合いは一種のストレス発散でもあった。


ギロロは、父に殴られた箇所を刺激しないように気をつけながらそろりと布団に潜り込んだ。
明日は大きなたんこぶになっているだろう。
ケロロも、きっとお揃いだ。
級友達にからかわれるのは間違いない。
あちこち痛んで寝られやしないと思いながら、疲れたギロロはあっという間に眠りに落ちていった。



いつの間にかついてしまった力の差にケロロが男の子らしいプライドを傷つけられていたことや、喧嘩してみたら同等で安心したこと、訓練所では相変わらずふざけていたが、この日からケロロが自宅でこっそりトレーニングを始めたことなど、ギロロが知ることはなかった。


そしてあのときギロロが感じた不思議な感覚も、自覚されないまま心の奥に仕舞い込まれていたのだった。








な、なんだかある意味クルケロより恥ずかしい話になっちゃったよーな…。
青臭い感じの話にしたかったんです…。だからいーんです…。

ギロケロについては自分の中でほとんど固まってないので、どんな感じなのかな〜と探りながら作りながら書いてました。
おたま時代やあの頃という謎に包まれた時代に育まれてこそのギロケロだと思うので、ある程度自分で設定作らなきゃいけないのが大変だけど楽しいですね。
どういうことがあってケロロの性格が変化していったのか或いは変わっていないのかとか、二人の絆に秘められた想いとか、勝手に妄想しながら書いてるの楽しかったです。

ケロロはギロロといるときが一番素じゃないかなーと思います。特に二人っきりのとき。

今回考えた色々な設定、本文中で説明しきれなかったけど、これからちょっとずつでも出して行けたらいいな。